ネイチャーガイドがファインダーを通して見た魚沼の自然の魅力

湯之谷公民館館長の肩書を持つ星さん、魚沼自然大学理事の肩書を持つ武藤さん、ネイチャーガイドであり、山小屋の管理人でもあり、写真を趣味とするお二人。共に魚沼で生まれ育ったお二人が口をそろえるのは、この土地の自然のすばらしさ。ガイドとして、また写真を通して多くの人に魅力を伝えたいと活動を続けています。

 

星 義廣さん(ほし よしひろ/魚沼市湯之谷公民館 館長)
武藤 光佳さん(ぶとう みつよし/NPO法人魚沼自然大学 理事、越後駒ケ岳「駒の小屋」管理人)

 

INDEX

 

武藤 光佳・星 義廣
(左)武藤 光佳さん (右)星 義廣さん

 

神秘の絶景、滝雲の「聖地」魚沼

冷え込んだ秋の夜明け前。連なる山々の間に雲がわき上がってきます。徐々に密度を増して谷を覆い尽くす雲。やがて限界点を超えると、雲海は稜線を超え、山肌を一気に駆け降ります。山の精霊がこの地に現れたような神秘的で、荘厳な自然のドラマ。幾筋もの雲が山を降りる光景は、目を見張るような美しい感動を与えてくれます。

枝折峠(しおりとうげ)は、この「滝雲」を目の当たりにできる「聖地」。魚沼市内から銀山平、奥只見湖を経て福島県の檜枝岐村へと抜ける国道352号線の標高1,065メートル地点にあります。滝雲は特に秋に多く見られるため、シーズンともなれば、プロ、アマを問わず多くのカメラマンがシャッターチャンスを求めて峠道にカメラの砲列を敷くといいます。「県内でもほかに滝雲の見られるところはあると思います。私も山を登っていると見ることがありますから。でも、これだけ間近に見られるところ、それも車道から見られるところとなると、そうそうないと思います」(星さん)。「ここの滝雲の元は奥只見湖。湖の水温と気温の差が大きくなったときに発生するんです。だから春よりもやはり秋のほうが見事な滝雲が見られます」(武藤さん)。

滝雲が発生するのは早朝、「遅くても5時までには来ていないと」と武藤さん。「ご来光の瞬間がまたいいんですよ。雲海の上の波立ったようになっているところがオレンジ色に輝いて」、星さんが絶賛します。「ご来光で雲海が輝くのもいいし、その光芒が雲海の間に差し込んだようになったら最高だね」(星さん)。人が造り上げた壮大な湖と自然が一体となって生み出す滝雲は、人々が自然に畏敬の念を抱きながら暮らしてきた魚沼ならではの光景かもしれません。

 

滝雲
星さんが撮影した枝折峠の「滝雲」

 

 

草花を愛おしむ気持ちを一枚の写真に込めて

枝折峠には滝雲撮影のカメラマンだけではなく、多くの登山客が集まります。峠の駐車場は越後駒ヶ岳への登山道の起点。近年の登山ブームもあって、取材当日も駐車場には県外ナンバーがずらり。関東方面はもとより関西方面から遠征してきた車も見受けられます。越後駒ヶ岳は、文筆家であり登山家でもあった深田久弥氏が選んだ「日本百名山」のひとつ。深田氏はこの山容を『三千メートル峰の風格がある』と評しています。いくつかある登山道の中でも枝折峠からのルートは最もポピュラーなルート。山頂近くの山小屋を管理する星さんと武藤さんにとっては、〝通勤ルート〟です。

武藤さんが小屋の管理を行うようになったのは10年ほど前。魚沼自然大学の前身であるガイドクラブに参加してからでした。「山登りなんて若い時に少しかじっただけで、本格的に始めたのは退職してクラブに入れてもらってから。小屋番に誘われた時も「えー」って感じで。花の写真が撮れるから小屋の管理を引き受けたようなもんです」。実は武藤さん、高校生の頃から花に興味をもっていました。「野生ランに興味を持ったのが始まりです。魚沼にも尾瀬にもありますが、ランはよく知られている豪華な雰囲気の花だけでなくて、普通の人がみてもランとわからないようなものまで種類が豊富なところがおもしろくてね。ただ、今はランに限らず幅広く。とにかく花を見ていれば楽しいですね」。

 

駒の小屋からの景色
駒の小屋からの景色(武藤さん撮影)

駒の小屋 星の降る夜

駒の小屋 星の降る夜(武藤さん撮影)

駒の小屋 凍結

駒の小屋 凍結(武藤さん撮影)

駒の小屋 夜明け

駒の小屋 夜明け(武藤さん撮影)

 

 

つれづれ日記」と題した武藤さんのブログには、里山や山小屋で撮影したたくさんの草花が掲載されています。「越後駒ヶ岳を代表する花は何かといえば、ハクサンコザクラ*という人もいるけど、私はイワウチワ*だな。淡紅色といいますか、薄いピンクがかった花がきれいなんですね。可憐で、控えめな感じがしていいですねえ」。目の前に花があるかのように思い入れたっぷりに話す武藤さん。ブログに掲載されている花の写真と短文からは、花を愛おしむ武藤さんの気持ちが伝わってきます。

※ハクサンコザクラ 北アルプス以北の日本海側の高山帯に咲く。石川県の白山で発見されたことから名前が付いた。草丈は10~15センチほど。花は濃いピンク色。
※イワウチワ 本州の中国地方以北に生育する。日本固有種。草丈は5~15センチほど。薄桃色の花は先端にフリルのような切れ込みがある。

 

武藤 光佳
花の写真が多いので、マクロレンズ専門ですと武藤さん。ソニーのデジタル一眼カメラに一脚とアングルファインダーを付けた撮影スタイル。撮影中は笑顔です。

白のイワウチワ

白のイワウチワ(武藤さん撮影)

ピンクのイワウチワ

ピンクのイワウチワ(武藤さん撮影)

ハクサンコザクラ

ハクサンコザクラ(武藤さん撮影)

 

 

星 義廣
画質にこだわる星さんは、ニコンのCMOSセンサーの35mmタイプを愛用しています。

 

 

ネイチャーフォトの極意は、これに尽きる

星さんが山小屋の管理人に名前を連ねたのは3年前から。地元の山岳会に所属していた星さんが役場を退職したのを機に、「これほどの適材はいないと思ってアタックしました(笑)」と武藤さん。平日は公民館館長としての業務もあり、山小屋の管理を行うのは土・日がメイン。武藤さんらほかのメンバーと交代で登山客を迎えています。

アマチュア写真家としても知られる星さん。これまでに県展で7回入選しており、2015年には尾瀬の風景写真をまとめた写真集の自費出版もしています。四季折々の尾瀬の美しい表情は、足繁く通った人でしか目にすることができない写真。「写真を撮るにはとにかく足で稼がないとだめですよね。それと滝雲の話じゃないけど早起き。お日様が高くなっちゃうと、光線の具合でなかなかいい写真がとれないから。夕方もいいですね。夕焼けにならなくても、光線の具合がいい。今のデジカメはホワイトバランスとかいろいろと調整ができるけど、そのままの自然な色が一番です」。

尾瀬や魚沼を自らの足で歩き、数多くの風景写真をカメラに収めてきた星さんが、特にすばらしいと感じているのは魚沼のブナ林の春だと言います。「大白川には手つかずのブナ林や二次林があります。春先の葉っぱからの光、透過光といいますかね、あれがすごい。ブナだけですよ、あんなにさわやかできれいな緑を見せてくれるのは。新緑の頃はまだ残雪があるから、白と緑のコントラストもいい。芽鱗(がりん)*が雪の上に落ちてきて雪が紅葉したようになってね。写真に撮るのもいいし、森林浴とか癒やし効果があるところもいいと思いますね」。

※芽鱗(がりん) 葉や花になる芽を覆って保護するうろこ状の小片。春になるとはがれ落ち、新芽が芽吹く。

芽鱗(がりん)
雪の上に落ちてきて紅葉したような芽鱗(がりん)。(星さん撮影)

 

ブナの芽吹き
ブナの芽吹き、葉の上にあるのが芽鱗(がりん)。(星さん撮影)

 

 

ネイチャーガイドを通じて伝えたいこと、感じてほしいこと

それぞれテーマは異なっていますが、魚沼の自然を写真に収め、この土地の豊かさをこよなく愛するお二人。ネイチャーガイドとしての活動を通して、多くの人に魚沼の魅力を知ってほしいと言います。

「やっぱり自然の奥の深さとでもいいますかね。路傍の草一本にしても、木の葉一枚にしても、大げさに言えばそれぞれに物語があるわけですよ。そういうところにも興味を持ってもらえたらうれしいと思いますね。私の場合は、特に草花への興味から入ってきたもので」と、武藤さん。一本の草花や木が、どのようにしてこの地に根付き、どのようにして生きてきたのか。自然の物語に思いをはせることは楽しく、より理解を深めてくれるきっかけになるはずです。

「ガイドをしていると、皆さんそれぞれのポイントで感動したり、発見したりしています。それはそれで大切なんだけど、それをつないだこの地域の良さ、雪国の良さだとか、魚沼ならではの良さだとか、そういう全体の良さを感じ取ってもらえたらうれしいですね。たとえば、紅葉。山の奥に行くと赤は鮮やか、黄色は透けるようなきれいさ、中には針葉樹林の鮮やかな緑もあって、そのバランスがいいんだけど、里山ではそうした鮮やかなきれいさがない代わりに、柔らかい錆色の、全山同じ色のようになるあの感じもすごくいい」。長年風景写真を撮影してきた星さんは、さまざまな美しいシーンを目にしてきています。でも、それはその場だけのものではなく、魚沼全体の豊かな自然があって初めて生まれる光景。「魚沼をまるごとみんな見て、知ってもらいたい」と思いを語ります。

 

尾瀬ヶ原全景

尾瀬ヶ原全景(星さん撮影)

ネイチャーガイド中の星さん

ネイチャーガイド中の星さん

尾瀬ヶ原池塘

尾瀬ヶ原池塘(星さん撮影)

 

 

雪があるからこそ、喜びに満ちた美しい春が来る

魚沼に生まれ育ち、ネイチャーガイドとして、また写真を通して魚沼の魅力を発信しているお二人に、好きな季節を聞いてみると、「春」と答えてくれました。
「私はやはり残雪期。これから春が来るよっていうのが気分的にもウキウキするし」と武藤さんが答えれば、星さんは「まったく同感です。春はほんとに生命力を感じます」と相づちを打ちます。すっぽりと雪に埋もれた冬が去り、残雪の中からブナの新芽が出る頃の喜び、うれしさは、雪国に暮らす人に共通した気持ちでしょう。

「でも、雪も決して嫌いなわけじゃないです。冬も撮影に出かけますけど、木の枝に霧氷がついて、「ツン」とした寒さが伝わってくるような光景。あの雰囲気が好きだから」(星さん)。「枝先まで真っ白になってね、あれもきれいだね。初雪の頃もいいんだよね。まあ、春にしても初冬にしても、どっちも雪が絡んでくるけどね(笑)」(武藤さん)。

四季がはっきりしていて、どの季節にも魅力のある魚沼。美しい山があり、川があり、滝雲のようなダイナミックな自然の営みに触れられる魚沼。写真を通して知ってもらえる魅力もありますが、「やはり足を運んでもらいたいですね」(武藤さん・星さん)。お二人のガイドなら、きっと豊かな魚沼を体感してもらえるはずです。

 

荒沢岳
荒沢岳の雪景色。(星さん撮影)

 

 

 

湯之谷公民館(湯之谷世代間交流施設)
住所 : 〒946-0071 新潟県魚沼市七日市32
TEL : 025-792-0530

 

特定非営利活動法人NPO魚沼自然大学
住所 : 〒946-0075 新潟県魚沼市吉田138番地6
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